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「潜るぞ」

レイナ アッシュは不機嫌そうに答えた。

「せめて一晩眠りたかったわ」

町の中での戦いは公には禁止されている。
小さな喧嘩ならともかく、超一級の剣士と魔導士の戦いは迷宮で。
これは彼らの間でも暗黙の了解である。
門を潜り、結界の中に入ると数人のビショップが取り囲む。
カドルトの加護を口々にまくしたて冒険者を迷宮に送り込むのが彼らの役目だ。

レイナは迷宮に降りるとさっそく何やら詠唱を始めた。
すると、二人の周りはぼんやりとした明るみに包まれた。

「サービスよ」

二人は地下への階段とは逆の方向に進んだ。
一つの扉を開けるとそこは見なれた広間である。
唸り声と共に数匹のオークが飛び出してくるが、ヴァーンガルツが一太刀で切裂いた。
レイナのラハリトが止めを刺す。
血と肉の焼け焦げる臭いが新たな怪物を誘い出してくる。

「面倒だ、巻き込むよ」

暗闇の中からぞろぞろと沸き出した醜悪な怪物達に、レイナは容赦なく
強烈な冷気を叩き付けた。ダルト系の最強呪文である。
瞬間、凍り付いた怪物達の中、ヴァーンガルツはその剣を大きく回し、
気合いと共に冷気を跳ね返していた。恐るべき剣の使い手。。

「手加減無しだな」

「さっき言った」

扉は魔法で封印され、広間は恰好の決闘場となった。

「試させてもらうよ、ヴァーンガルツ」

「望むところだ」

レイナは微笑むと高速詠唱に入った。
姿が揺らぎ、音と光の無い世界がヴァーンガルツを包み込む。
次の瞬間、ただならぬ邪悪な気配が沸き出して彼を襲った。

「まさか・・」

迷宮の最下層、この世で最も地獄に近い場所でなければ現れない怪物、
恐るべき魔の存在を感じ取ったヴァーンガルツは剣を構え直した。
これはレイナの気ではない・・人ではない魔物の恐るべき波動。。

「呼んだのか?!」

レイナの気配を感じ取る事はできない。
しかし魔物は確実に自分の目の前に迫りつつあった。
召喚魔法、
噂でしかないと思われた伝説の技は、やはりワードナの弟子が継承していたのだ。

「二、三、、四匹・・」

稲妻の如くカシナートが閃いた。
ヴァーンガルツの剣は一瞬の内に二匹を切裂いた。
幾度も戦った相手、急所はこの暗闇でも判る。

地面でのたうちまわる仲間を踏み付け、残る二匹が迫った。
素早く間合いを詰めた一匹が腕を振り上げ、その爪を左肩に食い込ませる。
激痛が走るより先、渾身の一撃がその腕を叩き落とした。
恐ろしい叫びと共に残る一匹がヴァーンガルツに迫ってくる。。

「たいしたものね」

突然、崩れ落ちるように魔物は倒れた。
死の言葉が魔物に入り込んだのだ。。

「じゃあ、始めるか」

左肩の痛みに耐えながらもヴァーンガルツは息も乱さず、
その鍛え抜かれた剣を構えていた。

「もう終わったわ」

レイナ アッシュは静かに近寄ると、左肩の大きな傷に手をあて
そっと詠唱した。
柔らかな光が傷口を包み込み、やがて痛みは消え去った。。

「よせよ、この程度ならすぐ治る」

「麻痺するわよ」

確かに奴の爪は獲物を麻痺、酷い場合は石化に追い込む。
致命的な一撃になるかもしれないのだ。

「充分試させてもらったわ。こんな浅い階でも奴らが呼べるって判ったんだもの」

髪を掻きあげながら、レイナは少し意地悪そうに微笑んだ。


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