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命と引き換えに冒険者達は何を手に入れるのか・・
片腕のホビットは笑って答えた。

「死んじまったら手には入らんよ。
 お宝は生き残った奴のものさ」

地に這い上がって陽の光と酒を浴びる、
それが生き甲斐。。
マグが、その片腕と引き換えに手に入れたものは名高き刀、
その名も「盗賊の短刀」
不思議な力を秘めていると言われてはいるが詳しい事は解らない。
潜る時には常に身に付けていたが、戦うには心許ない貧弱な装備だ。

「干し肉を切るには都合がいいがな」

戦いは戦士の仕事。
悲鳴と怒号、そして魔法の衝撃が立ちこめる中、彼は独り
じっと息を殺して闇に潜んでいる。
彼の戦いは静寂の中に始まるのだ。。

「罠を外すコツはただ一つ。
 外せると信じる事さ。
 仕掛ける事ができたなら、外す事もできるもんだ。

 いいかい、
 生まれたものは死ぬ、
 死ぬものなら殺せる、
 そいつと同じさ」

マグは名を上げた。
数々のトラップを見事に外し、地下迷宮から引き上げた剣や鎧は夥しい数になった。
それらは共に潜った剣士や魔術師と分けあった後、ボルタック商店に売却される。

「マグに払った額?
 覚えちゃないが、、いや、うちは領収書の類いは出さない事になっているんでね」

ある剣士はこう語った

「俺の初めての装備は全てマグにもらったものだ」

名も無き剣など売り物にはならない。
マグは持ち帰った武具のほとんどを、若い冒険者たちに分け与えたりもした。
この面倒見が良いホビットの盗賊は半年前、惜しまれながらも引退したのだった・・

異国の戦士はこの老盗賊の教えを二日でマスターした。
実際の石跳びの仕掛けを外すのは命懸けだが、それでも火薬で再現したマグのそれを
見事に破ってみせたのだ。

「たいしたもんだ、ヅェート。
 その腕であいつらと組めば十階でも通用するだろう」

「お世話になりました、老師」

「老師はよせやい、、
 ヴァーンの奴よりゃ若いつもりだ」

酒蔵から持ってきた酒を波々と注ぎ、マグは微笑んだ

「ウンガダ マグの盃だ。
 たった二日でも弟子は弟子、恥ずかしい仕事はするんじゃねえぞ」

そして一気に飲み干すと懐から一振りの短刀を取り出した。

「何かの役に立てばいいんだがな」

柄には素晴らしい細工が施されていたが、その刃は彼の歴戦を物語っていた。

「盗賊の短刀だ。弟子の証に持っていけ」

黒装束の戦士は少し驚いた様子だったが、深く礼をして短刀を納めた。

「内緒だぜ?
 そいつで切ったのは、、干し肉だけだ」

マグはそう言って笑った。


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