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調子の悪い昇降機を諦め、パーティーは階段を使っていた。

魔法の灯火が四つの影を照らし出す。
暗黒の迷宮はさながら夕闇に包まれた街角のようだ。
大きな影はヴァーンガルツとド ウル ワトー、
鎧が微かに音を立てる。
小さな影はリィン ルル、
レイナ アッシュはまるで影そのもの、、
そして黒装束の男は独り、影も許さぬ暗闇を進んでいた。

「見慣れた景色だわ」

「どこまでいっても同じ・・、そうだ」

リィン ルルが静かに詠唱すると、迷宮を照らし出す灯が徐々に
色を変えていく。

「素敵な色ね、リィン」

「貴女の瞳の色よ」

並んで歩く二人の魔導士に
ド ウル ワトーが訝しそうに割って入った。

「勾引(カドワカ)されたか、氷の魔女に、、ハーフエルフのお嬢様」

下品な口調にリィンは呆れた表情で答えた。

「妬いてるの?」

「馬鹿を言え」

魔女が笑った。

「私の恋路を邪魔するな、ワット」

「その呼び方はやめろ」

かつてワードナを師と仰いだ氷の魔女は、珍しく御機嫌な様子だ。
階段を使うのは面倒だと言いながら・・

やがて二階の一角、先頭のヴァーンガルツが呟いた。

「どうしたの」

「また変わってるんだ  邪魔な壁が出来ちまってる・・トラップのようだな」

確かに、この辺りの壁は地図や記憶とは異なっている
崩れた壁は所々焦げており、硝子玉のような欠片が転がっている・・

「誰かが壁を壊したのね」

影のように歩いていたレイナ アッシュが笑う。

「私かも」

彼女の最強呪文ティルトウェイトは迷宮の壁共、魔物達を吹き飛ばす。
あまりに強力な威力は時折、階下にまで達する事もある。

「階段を作ったって噂は本当なのか?」

「地獄行きなら、ね」

言葉が終わると同時に高速詠唱が始まる。
伸ばした指先はリィンに向かって魔法を促した。

『大男二人に防御、敵の詠唱を封印、贈り物は死の言葉』

敵は既にパーティーを取り囲んでいた。
正体は判らない・・
しかし、ヴァーンガルツは一閃で二匹を叩き斬っていた。

「嫌な切れ味だ」

「凍らせる」

レイナが氷結呪文を浴びせ、敵の大半は体の自由を奪われた。
リィンの唱えた死の呪文が次々に飛び込み、逃げ惑う者達さえ容赦しない・・

「ヅェートは」

ド ウル ワトーがその巨大なメイスで敵の頭蓋骨を粉砕していた頃
黒装束の男は一群の奥にいた。
まるで旋風(ツムジカゼ) のような動き、、

突如、唸り声が止み、やがて闇に静寂が訪れた。

「どうした?」

残った怪物達が闇に消えていくと、一際大きな怪物共の親玉が立ちすくんでいる。
照らし出されたその姿に、首は・・無かった。

「相変わらず悪趣味ね・・あなた」

レイナ アッシュが嬉しそうに近寄る。

黒装束の男の手は怪物の頭を掴んでいた。
足下には魔導士・・皆一様に頸を斬られている。

「さすが、シノビノモノ」

男は何も言わず座り込み、ただの肉塊となった敵に手を合わせていた。

「異国の祈りね
 ・・彼らを召して下さるかしら、あなたの神様は」

リィンが珍しそうに近寄る。

「いや」

男は立ち上がり、静かに答えた。

「君たちの神は私を召してはくれなかった」


つづく

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