-16- 調子の悪い昇降機を諦め、パーティーは階段を使っていた。 魔法の灯火が四つの影を照らし出す。 暗黒の迷宮はさながら夕闇に包まれた街角のようだ。 大きな影はヴァーンガルツとド ウル ワトー、 鎧が微かに音を立てる。 小さな影はリィン ルル、 レイナ アッシュはまるで影そのもの、、 そして黒装束の男は独り、影も許さぬ暗闇を進んでいた。 「見慣れた景色だわ」 「どこまでいっても同じ・・、そうだ」 リィン ルルが静かに詠唱すると、迷宮を照らし出す灯が徐々に 色を変えていく。 「素敵な色ね、リィン」 「貴女の瞳の色よ」 並んで歩く二人の魔導士に ド ウル ワトーが訝しそうに割って入った。 「勾引(カドワカ)されたか、氷の魔女に、、ハーフエルフのお嬢様」 下品な口調にリィンは呆れた表情で答えた。 「妬いてるの?」 「馬鹿を言え」 魔女が笑った。 「私の恋路を邪魔するな、ワット」 「その呼び方はやめろ」 かつてワードナを師と仰いだ氷の魔女は、珍しく御機嫌な様子だ。 階段を使うのは面倒だと言いながら・・ やがて二階の一角、先頭のヴァーンガルツが呟いた。 「どうしたの」 「また変わってるんだ 邪魔な壁が出来ちまってる・・トラップのようだな」 確かに、この辺りの壁は地図や記憶とは異なっている 崩れた壁は所々焦げており、硝子玉のような欠片が転がっている・・ 「誰かが壁を壊したのね」 影のように歩いていたレイナ アッシュが笑う。 「私かも」 彼女の最強呪文ティルトウェイトは迷宮の壁共、魔物達を吹き飛ばす。 あまりに強力な威力は時折、階下にまで達する事もある。 「階段を作ったって噂は本当なのか?」 「地獄行きなら、ね」 言葉が終わると同時に高速詠唱が始まる。 伸ばした指先はリィンに向かって魔法を促した。 『大男二人に防御、敵の詠唱を封印、贈り物は死の言葉』 敵は既にパーティーを取り囲んでいた。 正体は判らない・・ しかし、ヴァーンガルツは一閃で二匹を叩き斬っていた。 「嫌な切れ味だ」 「凍らせる」 レイナが氷結呪文を浴びせ、敵の大半は体の自由を奪われた。 リィンの唱えた死の呪文が次々に飛び込み、逃げ惑う者達さえ容赦しない・・ 「ヅェートは」 ド ウル ワトーがその巨大なメイスで敵の頭蓋骨を粉砕していた頃 黒装束の男は一群の奥にいた。 まるで旋風(ツムジカゼ) のような動き、、 突如、唸り声が止み、やがて闇に静寂が訪れた。 「どうした?」 残った怪物達が闇に消えていくと、一際大きな怪物共の親玉が立ちすくんでいる。 照らし出されたその姿に、首は・・無かった。 「相変わらず悪趣味ね・・あなた」 レイナ アッシュが嬉しそうに近寄る。 黒装束の男の手は怪物の頭を掴んでいた。 足下には魔導士・・皆一様に頸を斬られている。 「さすが、シノビノモノ」 男は何も言わず座り込み、ただの肉塊となった敵に手を合わせていた。 「異国の祈りね ・・彼らを召して下さるかしら、あなたの神様は」 リィンが珍しそうに近寄る。 「いや」 男は立ち上がり、静かに答えた。 「君たちの神は私を召してはくれなかった」 |