ダンナの会社の人と一緒にカラオケに行ったことがある。チャイニーズばかり、20人ぐらい。 その日は、チャイニーズ・ニューイヤー・イヴであった。 (注:チャイニーズ・ニューイヤー=中国旧正月。 旧暦による正月であり、チャイニーズにとっては、これが本当のお正月である。) 行ったのは、PJにある、「ソングバード」という、中国系の経営の店。 しかし、中国語、英語の曲はもちろん、マレー語、日本語、韓国語の歌まであった。 (日本語の曲はそんなに充実してなかったけど。) カラオケに来た人はみんなチャイニーズということで、やはり、ほとんどが中国語か英語の曲を歌う。 しかし、マレーシアならでは(だと思う)珍しいことがここでは見られる。 それは、中国語の歌を歌ってる人の耳に、ずーーっと何かをささやき続けてる人。 これ、何してるのか分かりますか? そう、歌詞をささやいているのである。なぜって?歌っている人が、中国語の歌詞を読めないからである。 マレーシアにいるチャイニーズの中には、文盲の人もかなりいるのだ。 * さて、ほかのみんなは、わたしが日本人だということを知っているので、ちょっとサービスで、日本語の歌でも 歌おうかな〜、でもみんなが知らない曲歌ってもしらけちゃうだけだしな〜、と思い、慎重に選んで、 入力した。 そしたら、その曲が出てくるまで待っている間、Cくんが言った。 「『First Love』歌ってよ。」 おお!それはまさにわたしがさっき入れた曲じゃないか。 やっぱり、さすが知名度高し、宇多田ヒカル。実際、マレーシアでもすごい人気である。 わたしが「First Love」を歌ったら、みんなサビを合唱してくれました。ありがとう。 ![]() そのCくん、わたしに話しかけてきた。 「ボクはたったひとつだけ日本語の言葉を知ってるんだ。」 当然わたしはこう聞いた。 「それは何?」 するとCくん、わたしを見つめ、一言、 「アイシテルー」 ・・・おい。 さて、その日はチャイニーズ・ニューイヤー・イヴということで、店を入ってすぐのところに、獅子舞の 獅子がいた。(獅子舞は、日本で見られるのとほぼ同じだと思ってもらえばいいです。) で、ドンガラジャンジャンとうるさい音をたてて舞っていた。 うるさいなーと思ったけど、個室に入れば歌の音量でそんなにうるさくないし、別に気にしていなかった。 わたしたちの部屋に入ってくるまでは。 人が歌ってるのに構わず、わたしたちの部屋で獅子は踊り狂った。 しかも、みんな、まるで獅子が見えていないかのごとく、平然としていた。 唯一、歌っているひとだけがいやそ〜〜な顔をしていた。 夜も更け、ますます熱くなっていくみんな。 はっきりいって、もうアンストッパブルである。誰にも彼らは止められない。 熱くなれば当然出てくる、世界中にちらばる中国人のアイドル、ジャッキー・チョン。 言っとくけど、ジャッキー・チェンじゃないからね。名前似てるけど。顔もちょっと似てるけど。 中国人で、彼を好きじゃない人なんかいるんだろうか、というくらい、絶大な人気を誇る。 彼の大ファンだと思われる女の子が、マイクを持って立ち上がり、熱唱しはじめた。 すると、 みんな、こぶしを握るいきおいで、大熱唱。っていうか、大合唱。 はっきりいって、誰がマイク持ってるのかよくわからない。 みんなの声が響く中、わたしは一人でプププーと笑っていた。 やっとおひらきになり、みんなは、あいさつをして散っていった。 すると、Cくんが言った。 「サヨナラ−」 ・・・ほかの日本語知ってるやんか。とわたしは心の中で突っ込んだ。 ワイルドで熱い夜だった。 *マレーシアには私立のチャイニーズスクールがあって、そこでは中国語の標準語であるマンダリン(北京語) の読み書き、そしてマレー語、英語などを教えている。さらに、KLのチャイニーズの人はほとんど広東語を 話すので、広東語もできる。 それに対して、公立の学校では、マレー語で授業を教え、英語も学習する。(最近は、国際的な競争力を つけるため、英語で教える科目が 多くなるように変わってきているらしいですが。)公立に行ったチャイニーズは、 家族が広東語を話すから広東語が母語だが、読み書きは習わないのでできないという人が多い。 うちのダンナも、中国語は文盲である。すごいと思う。だって、書き留めておかないとわたしは忘れてしまう のに、彼は、視覚的な手がかり一切なしで、広東語の声調を聞き分けてしまうのである。 この話にはおまけがあって、ダンナは、日本語の読み書きができるのだが、日本語ができるようになってから、 結構中国語を読めるようになったのだ。というのは、意味から推測できるから。 例えば、「水(みず)」は広東語で「ソイ」というのだが、中国語で「水」と書いてある時に、 「これは日本語で『みず』だから、広東語の同じ意味にあたる『ソイ』と同じ漢字だろう。だから、これは、 『水=ソイ』って読むんだろう」というふうにね。 2003年10月 |