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ウンガ ダ マグはホビットの盗賊だ。
彼がこれまでに開けた宝箱は数百、いや数千にもなる。
腕はドラゴンに噛みちぎられたというが本当のところは分からない。
それでもとにかく彼は盗賊を続けた。
いつしか「片腕のマグ」と呼ばれるようになった彼は先頃引退し、
今では後任の育成に取り組んでいる。
早い話が盗賊の親玉だ。

「親方は元気かい」

ヴァーンガルツは何度もマグと潜った仲だ。
若いホビットは気軽に案内してくれた。
町外れにある樹海、その入り口に彼の家はあった。
小さな造りだが良い樫を使って作られた二階建ての小屋だ。
おそらく地下にも部屋があるだろう。

「久しぶりだな、マグ」

ヴァーンガルツはその小さな小屋の小さな窓から顔を覗かせた。
中では小さな子供達が驚きの悲鳴を上げ走り回っている。
ヴァーンガルツは笑った。

「ヴァーン、そのでかいツラを引っ込めろ」

かん高い声が聞こえた。片腕のマグだ。

「孫達が怖がってる」

このホビットの子供達はまだ人間を知らないらしい。
一人の年老いたホビットが小屋から出てきた。

「あんたも爺さんか、マグ」

「誰だって歳はとるさ。
 ・・久しぶりだなヴァーン。。まあ飲め」

マグは木の皮でできた盃を差し出した。
素晴らしく良い香りのする酒である。

「再会に」

ヴァーンは一気に飲み干した。
マグは切り株に腰掛けて葉巻きに火をつけた。

「手ぶらで何の用だ、ヴァーン。
 せめて土産ぐらい持ってこい」

ヴァーンは苦笑した。

「わしはもう穴には潜れんぞ」

「あんたに潜ってもらうんじゃない」

マグは身を乗り出した。

「わしに、ではなく別の誰かか。
 、という事はだ、わしの所に来たのは何故だ?

 つまりその誰かの面倒をみさせようという訳だな。
 違うか?」

ヴァーンは笑った。
いつもながら、このホビットの盗賊は察しが良い。

「さすがだな、マグ爺さん。
 若いのを一人預かってほしいんだ」

「断る」

葉巻きをくわえたマグは煙りを一つ吐き答えた。

「ホビットの面倒ならみるが人間の盗賊などお断りだ。
 でかい上に鈍くて不器用だ。覚えも悪い、おまけにツキもない。
 教えるだけ無駄ってもんだ」

「そう言うな、マグ、
 人間にしちゃかなり出来る奴を連れてきたんだぜ」

一瞬、マグの表情が強張った。
葉巻きの火が足下に落ちた。
切り落とされたのだ。

「そいつに盗賊の極意ってやつを教えてやってくれないか」

マグの傍らには一人の男が立っていた。

「面白い!」

マグは自分の頬を張った。
そして男の胸を軽く叩き、にやりと笑ってみせた。

「少しばかりなら昔話でも聞かせてやる。
 潜るんだろう、井戸の底まで」

「三日後に出る。それまでに石飛びを外せる腕に仕上げてほしい」

ヴァーンが注文をつけた。

「それはまた急がせるな」

マグは腰を上げ、樹海に向かって歩き出した。

「若いの、連いてきな。
 さっそく教えてやる。
 お前は来るのかヴァーン?」

「遠慮しておくよ。
 こいつはほんの礼だ」

革袋の大きさ、その重みで中身は判る。

「窓の外に置いておけ。  お前が顔を見せると孫達が怖がるからな!

 ・・ああ、そうだ」

マグは懐から一枚の護符を取り出し、男に手渡した。

「こいつを返しておくよ」

その護符は男の持ち物だった。

「こっちは内緒だぜ」

マグは懐からもう一枚護符を取り出した。
ヴァーンの持ち物だった。
ヅェート ラゥイルは初めて笑顔を見せた。


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