「けん化」と言えば、「エステルに塩基を加えて加水分解する事」ですね。
ここでいう「けん化価」は、当然それに関連した事です。
定義が少しややこしいですが、「油脂1gを、完全にけん化するのに必要な、KOHのmg数」を「けん化価」と呼ぶと決まっています。
はぇ?
そんなもの、何の役に立つの?
そりゃ当然の疑問ですね。
そこで、油脂のけん化に関して、もう一度見直してみましょう。
油脂1molをけん化するためには、KOHは3mol必要ですね。
という事は、1gの油脂を加水分解するのに、KOHがたくさん必要だとしたら、油脂のmol数が多いって事だよね。
1g中のmolが多いって、分子量が小さいって事でしょ?
つまり「けん化価は、油脂の分子量を決める道具」なんですよ。
当然、けん化価から分子量を割り出す公式も、アホな参考書には載っているけど、ここに書いたら覚えようとするでしょ?だから書きません。
覚えるなよ、そんな公式。理系なんだから・・・。
意味と定義が分かっていれば、その場で換算出来るのですから、それで十分です。(いや、そうであるべきだと、私は思う)そんなの覚える暇があったら、英単語を覚えて下さい。(旧帝大以外は6000語ね)
ところで、「けん化価」って、何でけん化に必要なNaOHのmgではなくて、KOHのmgなの?
いい疑問ですね。
確かに教科書・参考書のけん化は、大抵NaOHで書かれていますね。
日本では大抵、けん化はNaOHでやりますから。
「日本では」と断ったのは、ヨーロッパでは違うからです。
なぜ日本ではKOHではなくNaOHを使うかと言いますと、日本ではKOHよりNaOHの方が安いからです。日本が島国だから。
NaOHは隔膜法で作りますよね。要するに海水から作る訳です。だから島国日本では、これが安上がりなのです。
一方ヨーロッパでは、鉱山が多い都合で、KOHが比較的安価です。ですからこっちがメジャーです。化学はもともとヨーロッパで発展した学問ですから、あちらさんに都合がいい定義になっている訳です。
急に「安い」だの「高い」だの俗っぽい話が登場して驚くかもしれませんが、実際問題、非常に重要な事です。化学は「お遊び」ではありませんから。
どんなものでも、実用的でなくては意味が無い。
例えば「電話線」。理論的には銀で作のが望ましいですが、実際には銅を使っています。銀の方が、抵抗が小さいから望ましいんですけどね。
当たり前ですね。銀で電話線なんか作ろうものなら、電話代が今の何十倍になるか分かりません。高いんですよ銀は。コストがかかりすぎるんです。ですから銅を使っています。
どんなキレイゴトを言っても、「銭」は大切なんです。
ま、言い方を変えれば、化学がそれだけ現実世界に密着している学問だって事なんでしょうけどね。
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