「酸化とは何か?」というのは、中学校の理科で勉強しましたよね。「酸素を受け取る事」でした。
確かにそれで間違いではないのですが、その考え方には多少問題があるんです。
?
どういう事でしょうか?
ここで、こんなことを考えて見てください。
アンモニアは塩基(アルカリ性)ですね。
で、塩基って何ですか?
中学校では「OH-を持っている分子」と習った人も多いでしょう。
でも、それだと、アンモニアはOH-を持っていないので、アンモニアが塩基である事が説明できませんね。
では、アンモニアは塩基ではないのでしょうか?
それは違うでしょう。塩酸と反応出来ますし、PHは7より大きいですから、塩基ではあるでしょう。
そこで、高校化学で、「塩基の定義を変更した」んですね。「H+を受け取る事ができる物質を塩基と言う(ブレンステッドの定義)」と変更(拡張)する事で、アンモニアが塩基である事が、うまく説明出来ました。
これは化学に限りません。
三角比では、sin、cos、tanを、三角形で定義しましたが、三角関数では、座標を利用して定義し直しました。こうすることで、非常に便利になりました。
この様に、定義を拡張することで、物事がうまく説明出来る事が、しばしばあります。
そんな訳で、酸化の定義を拡張します。
なぜかって?
そりゃ、そうする事で、今まで「酸素を受け取る」という説明ではうまく説明出来ない、けれども実質的には、酸素を受け取るのと同じ事が起きている現象を説明出来るようになるからです。
そこでまず、「酸化数」という量を定義する必要があります。
酸化数は、原子(イオン)一つ一つが持っている量で、その値は状態によって変化します。
例えば鉄は、原子番号は***、質量数は***と決まっていますが、酸化数は時と場合で変化します。鉄の酸化数は0と+2と+3があります。
(酸化数は本当はギリシャ数字で表現しますが、インターネットの都合上、表示出来ないので、ここではアラビア数字で表示します)
で、酸化数は、以下のルールで決定します。
というのがルールです。
が、これでは分からないと思うので、具体的に書いてみましょう。
金属の鉄がコロンっと転がっているとします。
この中の鉄原子の酸化数はいくらでしょうか?
それはルール1「単原子分子中の原子の酸化数は0とする」を考えると、「0」である事が分かりますね。
ではこの鉄を、塩酸に入れて、溶かしてみましょう。
こうして生じた鉄イオン「Fe2+」の酸化数はいくらでしょう?
この場合は、ルール2「単原子イオン中の酸化数は、その価数とする」ですから、酸化数は「+2」です。
では、今度は鉄をガスバーナーであぶって、酸化鉄にしたら、酸化数はいくらでしょう?
今度は「化合物中のHの酸化数を+1、Oの酸化数を−2とする」と「分子全体では、酸化数の和は0になる」を同時に考えます。
FeO の中のOの酸化数は「−2」で、FeO全体の酸化数は「0」ですから、Feの酸化数は「+2」ですね。
もう一つくらい例を挙げてみましょう。
炭酸H2CO3の中の、Cの酸化数を調べてみましょう。
炭酸は電離すると、CO32-ですね。
まず、Oの酸化数が「−2」で、それが3つありますので、酸素の酸化数の合計は「−6」です。また、分子全体の酸化数は「多原子イオンでは、各構成原子の酸化数の和が、イオン価に等しい」というルールから、「−2」です。
ですから、
と考えると、「−4」である事が分かるでしょう?
さて、この「酸化数」を使うと、酸化還元をうまく説明出来ます。
さっきの例に戻りましょう。
これは中学校で習った、鉄の酸化反応ですね。
で、反応前後の鉄の酸化数に注目して下さい。
「反応前のFeの酸化数は0」で「反応後のFeの酸化数は+2」ですね。
つまり酸化数が増えたんですね。 そうです、「酸化する」という事を「酸化数が増加する事」と定義するのです。
当然、逆に酸化数が減れば、「還元」です。
ここで、定義の変更(拡張)です。
酸化:酸化数が増える事
還元:酸化数が減る事
こうする事で、酸素の授受がない酸化還元反応という、新しい考え方が生まれます。
その代表が、脱水素酸化と電子の移動による酸化でしょう。